眼瞼痙攣・片側性顔面けいれん
【概念】
眼瞼痙攣は、眼輪筋の不随意収縮による開眼困難を主症状とする局所ジストニアです¹。顔面けいれん(片側顔面痙攣)は、一側の顔面筋の不随意収縮を特徴とする疾患で、多くは顔面神経血管圧迫症候群によるものです39。眼瞼痙攣は大脳基底核の機能異常、顔面けいれんは脳幹部での顔面神経の異常興奮が原因と考えられています²。
【頻度】
眼瞼痙攣の有病率は人口10万人当たり約3-5人とされています¹。中高年女性に多く、男女比は約1:2-3です。顔面けいれんの有病率は人口10万人当たり約8-11人で、中年以降の女性に多く認められます²。アジア人に多い傾向があります³。
【症状】
眼瞼痙攣では、まばたきの増加、開眼困難、羞明を認めます¹。軽症例では眼の違和感、まぶしさから始まり、進行すると眼瞼の強直性けいれんにより機能的失明状態となることがあります。顔面けいれんは、一側の眼周囲から始まる不随意運動が下位顔面筋へと進展します²。初期は眼輪筋のぴくつきから始まり、進行すると口角、頬部、顎部の筋肉に及びます。睡眠中も持続し、精神的緊張により増悪します³。
【検査】
診断は主に臨床症状に基づいて行います¹。眼瞼痙攣では、瞬目率の測定、開眼努力試験が有用です。顔面けいれんでは、MRI検査により血管圧迫の有無を評価します²。電気生理学的検査として、異常筋反応(lateral spread response)の記録により、神経血管圧迫の診断に役立ちます²。鑑別診断として、眼瞼ミオキミア、顔面チック、薬剤性ジストニアなどを除外する必要があります³。
【治療】
両疾患ともボツリヌス毒素局所注射が第一選択治療です¹。眼瞼痙攣に対しては眼輪筋への注射を、顔面けいれんに対しては罹患筋への注射を行います²。効果は3-6か月持続し、定期的な再注射が必要です³。薬物療法として、眼瞼痙攣にはクロナゼパム、バクロフェン、顔面けいれんにはカルバマゼピンが使用されることがありますが、効果は限定的です¹。顔面けいれんに対しては微小血管減圧術が根治的治療として有効で、約90%の症例で症状の消失または著明改善が得られます²。2024年の最新研究では、ボツリヌス毒素治療の長期効果と安全性、および新規治療法の開発が進んでいます⁴。
- ジストニア診療ガイドライン作成委員会. ジストニア診療ガイドライン2018. 医学書院, 2018.
- Jesuthasan A, Natalwala A, Davagnanam I, et al. Hemifacial spasm: an update on pathophysiology, investigations and management. J Neurol. 2025;272(1):123-136.
- Xiang G, Sui M, Jiang N, et al. The progress in epidemiological, diagnosis and treatment of primary hemifacial spasm. Heliyon. 2024;10(19):e38600.
- Wang B, Wei X, Qi H, et al. Efficacy and safety of botulinum neurotoxin in the treatment of hemifacial spasms: a systematic review and meta-analysis. BMC Neurol. 2024;24(1):456.
